
認知症の初期症状としてまずあらわれるのが記憶障害です。
しかし、認知症の記憶障害は、老化による物忘れと非常によく似ています。
そのため、いつも側にいる家族でも見逃しやすく、早期発見がもっとも遅れてしまう原因といえるでしょう。
早期発見をするためにも、認知症の記憶障害と、心配ない物忘れのちがいを見分ける必要があります。
では、詳しく考察していきましょう
記憶障害と物忘れの違い
認知症の記憶障害は別名「すっぽり型の物忘れ」といわれています。
たとえば、昨日、友達と食事に出かけたはずなのに・・

お母さん!昨日は●●さんと何を食べてきたの?

え?昨日は●●さんには会ってないよ・・

え~!●●さんと食事に行くって出かけたじゃないの!
このように、出来事そのものをすっぽりと忘れてしまうのが認知症の記憶障害の特徴です。
では、心配ない物忘れはどうでしょうか?

お母さん!昨日は●●さんと何を食べてきたの?

ええっとねぇ・・・確か、定食だったけど、なにがおかずだったかしら~
このように、心配ない物忘れはすっぽり忘れるのではなく部分的にはきちんと覚えているのが特徴です。
◆認知症の記憶障害と心配ない物忘れ違い
認知症による記憶障害 | 心配ない物忘れ | |
---|---|---|
原因 | 脳の海馬の萎縮や脱落 | 脳の老化 |
物忘れ | すっぽり忘れる | 部分的に忘れる |
症状の進行 | だんだん進行する | あまり進行しない |
判断力 | 低下する | 低下しない |
自覚 | 自覚がない | 自覚している |
日常生活 | 支障がある | 支障がない |
どうして「すっぽり」忘れてしまうのか?
私たちは無意識に記憶のしまい方を調整しています。
たとえば、旅行でホテルに泊まったとき、部屋番号は一時的に覚えておけば良いので脳の浅い部分で記憶します。
しかし、感動した出来事などは、脳の深い層まで刻み込まれ、その記憶は何年も残り続けるでしょう。
このような記憶の保管や出し入れは脳の海馬という部分がおこなっています。
つまり「記憶の製造工場」ですね。
この海馬は親指ほどの大きさですが、1千万個もの神経細胞があり、記憶のネットワークを作っています。
認知症の記憶障害は、この海馬そのものが萎縮することでおこります。
たとえば、認知症でなくても、事故などで海馬をなくしてしまった人は記憶を5分ほどしか維持できなくなった症例もあります。
海馬は記憶の製造工場。
記憶の新しいものからすっぽりと忘れてしまう症状がおこるのです。
認知症が進行すると古い記憶だけになる
海馬が萎縮してしまうことで、ドンドン忘れていく記憶がさかのぼっていきます。
最初の頃は、ついさっきのことや昨日のことをすっぽりと忘れるようになり、そしてじょじょに数年前のことも思い出せなくなります。
そのことも含めて、記憶障害の忘れ方は以下の特徴があります。
■最初の出来事から忘れていく
■体を使った体験的な記憶は忘れにくい
■感情的な記憶は残る
■日常いつもしている習慣的な記憶は残りやすい
このような特徴があることを覚えておくことが、記憶障害を早期発見するポイントになるでしょう。
早く発見するためにも日々の会話を!
認知症の記憶障害の特徴はすっぽりと忘れてしまうこと。
ですから、本人にとっては自覚が乏しくなります。
もしも、部分的に覚えていれば、そのことに対して悩んだり、家族にも相談するでしょう。
しかし、すっぽりと忘れてしまうので、他人から指摘されるまでは気がつかないことが多々あります。
そんな見逃しやすい記憶障害に気づくことができるのは周りの家族しかいません。
本人の行動や、言動がいつもとちがうな・・と感じたら、さりげなく確認するようにしてみましょう。

お母さん!今日は●●さんとどんな話をしてきたの?
このような、日々のなにげない会話が認知症の記憶障害に早く気がつくきっかけとなるのです。