(症状3) お風呂に入りたがらない

ひとりでお風呂に入ることが難しくなってきた場合、介助が必要になります。

しかし、たとえ家族であっても「お風呂はひとりで入るもの」という意識から入浴を拒否されることがあります。

入浴拒否を改善した症例をもとに対応法を考えてみましょう。

入浴はデリケートなこと

認知症により判断能力が衰えてきても、感情の部分は残っているものです。

また本来、誰でもお風呂はひとりで入るのが一般的ですから、家族であっても他者に介助を受けるのは恥ずかしいことでしょう。

しかし、介護する側からすれば、そのような本人のデリケートな思いよりも、入浴して清潔にしてもらうことを注目しがちに。

そして、本人に嫌がられてしまい困り果てることが多くあります。

まずは、入浴というのは清潔を保つためだけでなく、さまざまな意味をもっていることを広い視野で見つめなおしてみましょう。

本人は入っているつもりかも

入浴を拒否する理由として、認知症による判断力の低下から、「自分は毎日きちんと入っている」と思っている場合もあります。

そこで、そんな本人の世界に入って、シミュレーションしてみましょう。

もしも、あなたが、毎日きちんとお風呂に入っているのに・・

「お風呂に入ってスッキリしよう!手伝ってあげるから!」

と言われても、わけがわからず拒否しますよね。

では、昼間に入浴ケアにきてくれるヘルパーさんや訪問看護師さんが相手ならどうでしょうか?


「お風呂に入りましょうか?スッキリしますよ」

妹(びっくり)

え~~


■なぜ昼間からお風呂に入らなければいけないのか?

■なぜ、わざわざ外部の人にお風呂に入れてもらわなければいけないのか?

これらのことが疑問になり、入浴を拒否するのは当たり前のことではないでしょうか?

身体的状況から気持ちをくみとる

さらに大切なことは、本人の健康と身体的能力から嫌がる気持ちをくみとるということです。

高齢になると私たちが思っている以上に、動くこと、歩くことが身体的能力の低下によってめんどうになるもの。

また、高齢になると、血圧が不安定になるなど、それまで経験してきた病歴から健康状態に変動がおこりやすくなります。

さらに、認知症を患っている場合は、中核症状の失語(相手に自分の気持ちを言葉として上手に伝えれないこと)があることがあり、本人の気持ちが見えにくくなります。

このように、本人の身体的状態を考えれば、入りたくないという気持ちがおこっても自然なことだと理解できるのです。

入浴は思っている以上に体力を使うことであり、私たちでも体調がすぐれないときは入るのがめんどうになりますよね。

しかし、お風呂に長く入らないままでは、不潔になり健康面でも良くありません。

そこで、どのようにすれば上手に対応できるのでしょうか?

お風呂に入りたがらない時の対応

お風呂に入りたがらない理由は、本人の性格、経験、健康状態、生活環境が大きく影響しているため、人それぞれ異なります。

そのような中、どのようにしていけば上手に対応できる糸口が見つかるでしょうか?

嫌がる言葉で気づく

わかりにくい認知症の人の気持ちに気づいてあげるには、とにかく細かく観察することです。

たとえ、小さくボソッとつぶやいた言葉だとしても

その言葉の意味になにがあるのか?

状況に合わせて探ってみましょう。

たとえば、お風呂が上がりに・・

母(困った)

寒い・・

このようにひと言つぶやいたとします。

ということは、そこから、この場合に適した対応が見えてきます。

【対応例】

■お風呂あがりはすばやく身体を拭いてあげる
■脱衣所をあたためておく

また、持病などの健康状態も視野に入れて考えると、ただ単に「身体がぬれている、気温が低い」だけが寒い原因とは限りません。

◆高齢者の入浴は血圧管理に注意を!

血圧の調節機能が弱まっている高齢者は、入浴する時の健康状態チェックが非常に大切です。

とくに認知症の人は自分の今の健康状態を伝えることがうまくできないため介護をする側が敏感に気づかなければいけません。

とくに血圧などの循環機能系はしっかりと観察しておくことが大切です。

「寒い・・」

と、つぶやいたひと言に、血圧の変動が関係しているかもしれないからです。

そのため夏でも寒がったりするときは、血圧の不安定さを疑い、医師や訪問看護師に積極的に相談しましょう。

嫌がる表情で気づく

本人の気持ちに気づくには、言葉の他に表情やしぐさも大きなポイントになります。


たとえば、お風呂上りに下着をつけさせてあげようとしたとき・・

父(怒る)

むっ

このようにとても嫌そうな表情をしたとします。

ということは、そこから、この場合に適した対応が見えてきます。

【対応例】

■下着は自分で着たいみたいだから手を出すのをやめる
■少々、時間がかかっても見守り、できそうにない時になったら手を貸す

お風呂は日本人には特別な意味がある

東日本大震災の時、災害現場が落ち着いたあとの、欲求で多かったのが「食」、そして、「温かいお風呂」だったそうです。

私たち日本人にとって入浴はただ単に身体を清潔にすることだけが目的ではありません。

気持ちをリラックスさせ、解放させてくれる大切な行為でもありますよね。

たとえ、認知症を患い、判断能力が低下した人も同じことがいえるのではないでしょうか?

ですから、身体を清潔に保つことだけを考えていては、本人の気持ちに沿った介助はできません。

自分なら?とシミュレーションする

お風呂をなぜ嫌がるのか?

どうか、本人の気持ちになってシミュレーションしてみてあげてください。

なぜ、そんなことを言うのか?

なぜ、嫌な表情をするのか?

この記事で紹介したのは一例であり、実際は人それぞれ異なります。

しかし、広い視野で眺め、そして、自分だったら?と想定してみることで嫌がる気持ちを探し出す努力をしてあげてください。

少しでも理解でき、本人の気持ちに沿う対応に改善できれば・・

母(ほ)

ああ、サッパリした。お風呂はやっぱり気持ちいいわ


介護者(にこ)

良かった・・最近、お風呂に入るのを楽しみにしてくれてるみたい

このように、嫌がっていた入浴を、楽しみなことに変えることも可能なのです。

じょじょに入浴に慣れてもらう

最初の難関は説得して湯船に浸かってもらうまでが一苦労なものです。

しかし、その難関を乗り越え、本人の言葉、表情からベストな対応を探っていくことで状況を変えていきましょう。

根気がいることですが、入浴はさまざまな効果をもたらしてくれます。

先述したように入浴は私たち日本人にとって心がリラックスする大切な行為。

お風呂に素直に入ってくれるようになると、リラックスした本人からいろいろな話が聞けることもあります。

認知症になると無口になったり、本人の気持ちがつかみにくくなりますから、これはとても貴重なことです。

また、リラックス効果は、他の生活面にも大きく影響します。

不眠だったのが、身体が爽やかになることで眠れるようになった

入浴中に自分の気持ちを話すことでストレスが発散できるようになった

他にもたくさんの効果があるでしょう。

人それぞれ、お風呂に入りたがらない理由はさまざまですが、ぜひ介護する側が細かい観察と広い視野をもって接してあげてください。