(症状5) 食欲不振

食事をあまりとらない

口を開いてくれない

吐き出す

このように食事を摂ってくれないとき、どのようなすすめ方をすれば良いのでしょうか?

また、逆に・・

急いで食べる

食べ過ぎる

という過食症状があらわれることもあります。

認知症ではさまざまな摂食障害がおこるため、それぞれに合った対応が必要となります。

では、くわしくみていきましょう。

嚥下障害をうたがう

まず、食欲不振など摂食障害がある場合は、嚥下(えんげ)機能を疑います。

嚥下とは食べ物が口から胃にたどりつくまでの働きのこと。

普段、私たちは自然に食べ物をのみこんでいますがそれは・・

◆嚥下機能◆

口→喉→食道→胃

このように嚥下機能がスムーズに働いているからこそ食べることができています。

ですから、たとえ、逆立ちをして食べても嚥下機能によりきちんと胃に食べ物が送り込まれるわけですね。

しかし、高齢になると老化により、この嚥下機能が衰え、うまく食べ物が運ばれません。

これにより、誤嚥性(ごえんせい)肺炎といって、食道ではなく気管に食べ物が入って肺炎を発症することがあります。

日本の死亡原因の第3位は肺炎であり、高齢者の場合はとくにこの誤嚥性によるものが多いので注意が必要です。

食欲不振だけでなく以下のような症状が出た時はすぐに対処してください。

◆肺炎の症状◆

咳がでる(黄、緑、鉄サビ色)熱がでる(38度以上)胸が痛い
呼吸が苦しい寒気がする唇、顔があおい

嚥下障害がない摂食障害

では、嚥下障害がないのに、食欲がなかったり、食べ過ぎたり、味覚が変化したときはどう対応すれば良いのでしょうか?

とくに、介護者にとっては本人が「食べない」ことによる、栄養低下、それによる身体の衰えが心配ですよね。

食欲不振とひと言でいってもさまざまなことが原因となっています。

【食欲不振で考えられる原因】

■食べ物の認知ができない

■食事環境は合わない

■口の中が敏感になっている

■介護者との関係

これらの中でも、認知症ともっとも関係が深い原因が「食べ物の認知ができない」ことです。

味の想定ができない

私たちは無意識にですが、食べるときには目で確認して、その食べ物を口に運ぶ前にどんな味か想定しています。

※たとえば、レモンを見たとき・・

妹(にこ)

(これはレモンだ。すっぱいだろうなぁ・・)

このように脳がレモンを認識し、過去のデーターから「すっぱい」という味覚を思い出します。

それによって食べる前に心の準備ができるわけですね。


※では、もし、レモンを見ても脳が認識できなかったらどうでしょうか?

このようにレモンは見えていても脳が認識できないため「わからない物体」になります。

※これをわからないまま口にいれてしまうと・・

妹(あせる)

うわぁ~~!!すっぱーーーーい!!!

このように、誰でも想定外のレモンのすっぱさに驚くことでしょう。

認知症の人もこれと同じような状態だといえます。

つまり、食べ物の認識ができないため、どのような味をしているのか私たちのように想定することができません。


※ですから、食事を見ても・・

※脳が認識できない・・


父(困った)

これはなんだ??・・食べたくないな・・

このように、「味が想定できない」というのはとても不安なことなのです。

食欲がないからと安易におやつを選んでないか?

食欲がないと介護する側はとても心配なものです。

できるだけ食べやすいものをと、プリンやヨーグルトなどを間食に差し出していないでしょうか?

それらを食べてくれない場合、もしかすると、記憶がさかのぼり、本人の脳からプリンやヨーグルトのデーターは消えているのかもしれません。


父(困った)

なんだ、このプルプルしたものは?見たことがないぞ・・

このような場合、昔でもわかる食べ物(バナナや、りんご、あんぱん)などを差し出すと認識できることがあります。

父(笑顔)

おお!バナナだ!ごちそうじゃないか!

このように、本人の世界に入って、いろいろな食べ物を試してみると良いでしょう。

普段の食事の対応法

では、普段の食事での対応法はどうすれば良いのでしょうか?

まず、食事を出したとき、これはどんな味がするのか、どのようなものなのか教えてあげましょう。

そうでなければ、本人は見ただけでは私たちのように認識がうまくできません。


父(困った)

ん?これはなんだ・・?

兄(笑顔)

これは黒豆の煮物です。甘い味がしますよ

父(え)

そうか、黒豆か、甘いのか

このように本人の世界に入って配慮したひと言が大きな安心感を生み出します。

食べすぎの対応法

では、食べ過ぎの場合はどのような対応をすれば良いのでしょうか?

食べ過ぎの一般的な原因として、

■食べたことをスッポリと忘れてしまった

■満腹中枢の機能が衰えてしまった

これらのことが原因としてあげられるでしょう。

もちろん、これらのことが食べ過ぎの大きな原因であることに間違いありません。

しかし、もう一歩、本人の世界に踏み込んで考えてみましょう。

私たちは食べ物が豊かにある時代に生まれました。

しかし、現在の高齢者は幼い頃からいつも満腹だったわけではありません。

認知症によって記憶がさかのぼっているのだとしたら、その時と同じ気持ちになるのではないでしょうか?

母(怒る)

今、これを食べておかなきゃ!私の分がなくなるわ!

「食べ物をたべる」ということはとても原始的で、生命を維持するための重要な欲求です。

私たちも明日は食べる物がないかもしれない。

今、目の前の物しか食べれないかもしれない。

そのような状況になると、必死にたくさん食べておこうと思うのではないでしょうか?


ですから、このような状況の本人の世界に入り・・・

介護者(笑顔)

ほら見て。ご飯はまだまだいっぱいあるからね

このように、まだ食べ物はたくさんあること。

そして今日だけでなく明日も食べれることを教えてあげましょう。

そして、できるだけ、ゆっくり噛んで食べることをうながします。

介護者(笑顔)

急いで食べると喉にひっかかるからね。ゆっくり噛んでね、ゆっくり

このようにゆっくり噛めば、満足感だけでなく、唾液の分泌、脳への刺激など、とても良い効果があります。

その他の対応として、急いで食べれないように小さめのスプーンを渡すのも良いでしょう。

食事を工夫する

最近では刻み食に代わる新しい介護食として、ソフト食をよくみかけるようになりました。

ソフト食は見た目はそのままなので、視認性にすぐれ、食事の意欲をわかせる効果があります。

「いま大根を食べている」

と、認識しながら食べることで、認知症の進行を遅らせる効果も期待できるでしょう。

また、魚などは骨などが心配でついつい身をほぐして提供しがちですよね。

しかし、重度の認知症でない限り、あえてそのまま出して、自分で骨を取りつつ食べてもらうことも大切です。

これは本人の残っている機能を刺激するためであり、介護側が良かれと思ってあれこれやりすぎるのも良くありません。

もしも、ほぐさなければ無理な場合は、ほぐす前の魚を見せてあげてください。

介護者(にこ)

今夜の夕飯はサンマだよ!美味しそうでしょ?

母(笑顔)

ほんと美味しそうなサンマね!

このように、ほぐす前の魚を見せてあげることでその後の食欲が変わってきます。

私たちだって、ほぐされて原型のわからない物を食べるよりも、その方がグッと食欲がわきますよね。

それと同じです。

食べることの楽しみをうながす

認知症の摂食障害がでると、介護者は悩みます。

「なんとか食べてもらいたい」、もしくは、「食べ過ぎないでほしい」などなど。

しかし、認知症という病気が邪魔をして、人それぞれの摂食障害が生まれるため、対応がとても困難になります。

ですが、どんな状態があらわれても、本人の気持ちに歩み寄る努力をしてみてあげてください。

それには、どのような場合でも「食事は楽しみであること」

このことを介護をする側が忘れないようにしたいものです。