(症状7) 排せつ問題

認知症の記憶障害は、現在、過去、未来の境目が消え、周りの空間認識を失くしてしまうことがあります。

そのため、

「今はいつ?」

「ここはどこ?」

「あなたは誰?」

といった状態になることに。

このようになると、トイレの認識も場所もわからなくなってしまうことがあります。

ですが、排せつ問題は、本人にとっても、介護人にとっても大きなことですよね。

では、その排せつ問題に、どのようにうまく対応していけば良いのでしょうか?

「トイレに行く」という行動を考えてみる

私たちは普段なにも考えることなく、「トイレに行きたくなったら行く」という行動を日々おこなっていますよね。

ですが、あらためて、その時の行動を細かく再確認してみましょう。

【トイレに行く時の行動の流れ】

便意をもよおす

(座っていたら)立ち上がる

部屋から出るためにドアに向かう

ドアノブを回して開ける

部屋から出てドアを閉める

トイレに向かう

トイレに入る


このような一連の動作をしてトイレに行くでしょう。

しかし、ここで肝心なことを忘れていないでしょうか?

それは・・

■なぜ、便意をもよおしたらトイレに向かったのか?

ということです。

脳の仕事はイメージしにくい

「なぜ、便意をもよおしたらトイレに向かったのか?」

それは脳が、

「ここでするな!排せつはトイレでしろ!」

と、命令したからでしょう。

このように、私たちはトイレに行くための一連の動作をする前に、

まず、脳の命令があってから、動き出します。

つまり、私たちがなにか行動する一歩前には必ず脳が指示を出しています。

それは誰でもわかっていることなのですが、無意識でおこなっているため、具体的にはイメージしにくいものなのです。

たとえば、体の各部位がもし壊れたら、あなたはどのようなイメージをしますか?

※もしも、目が壊れたら?

弟(困った)

周りが見えなくなってしまいます


※もしも、耳が壊れたら?

弟(困った)

音が聞こえなくなります


※もしも、足が壊れたら?

弟(困った)

歩けなくなります


※では、脳が壊れたら?

弟(びっくり)

え?脳?・・脳が壊れたら・・えっと・・

このように、目や耳や足が壊れたら?と聞かれると、どこがどう支障がでるか、すぐにイメージすることができますよね。

しかし、脳が壊れたら?となると、全体的に影響を受けるのはわかるのですが、具体的にどう支障がでるのかイメージできません。

なぜでしょうか?

このように、脳がおこなっている仕事というのは、普段、私たちが意識しないまま当然のごとく自然にやっていることだからです。

なぜ、トイレで排せつできなくなるのか?

認知症は脳が壊れてしまう病気です。

私たちは「排せつしよう」と思う前に、無意識に脳が「ここでするな!トイレに行け!」と指示を出します。

しかし、脳が壊れてしまうと、この指示がやってきません。

すると、「排せつしよう」という欲求だけがあらわれることに。

これらは認知症という病気が脳を壊すことでしていることであり、本人のせいではありません。

このように、認知症の排せつ問題を対応する前に、「本人のせいではない」ということを知っておくことが大切です。

では、それをふまえて対応法を考えていきましょう。

尿漏れの場合はまず泌尿器科へ

まず、認知症の記憶障害による対応をする前に、身体的な老化からきていないかチェックをしておきましょう。

尿もれの場合はいくつかの原因が考えられます。

■尿意を感じるのが鈍くなり、ぼうこうの中に尿があふれ出してしまう。

■尿意を感じてからトイレに行くまでに間に合わずもらしてしまう。

■ひんぱんに行きたくなり、間に合わなくてもらしてしまう。

■咳をしたときなどにお腹に圧力がかかり、もらしてしまう。

このような症状があるときは、まず泌尿器科で診察を受けることが先になります。

トイレをわかりやすくする

では、ここからは、認知症によっておこる排せつ問題の対応をみていきましょう。

認知症は少しずつ進行していきます。

ですから、初期の頃ならば、便意をもよおした時に脳が「トイレに行け」と命令をすることができます。

しかし、「トイレに行こう!」という能力がせっかく残っていたとしても、肝心の場所がわからないことが多々あるでしょう。

たとえ、「トイレ」と書いてある札を見ても、それをトイレだと結びつけることができず、失敗してしまうこともあります。

このような場合は、トイレに行くまでの道順に、トイレの絵を描いた紙を貼るなどの工夫をしてみましょう。


「トイレ」と文字だけで書いても良いのですが、症状の進行を考えて文字だけでなく絵も合わせた方がわかりやすくなります。

「便もれ」に先手をうつ

トイレ介助が必要になったとき、本人から「トイレに行きたい」と言ってくれたらいいのですが、それも難しくなってきます。

症状が進むと、排便をしたこと自体もわからなくなり、便を床に置いたり、汚れた手をカーテンで拭いてしまうことも。

これは、「下着が汚れて気持ち悪い」、「手がヌルヌルして気持ち悪い」など、感情の能力が残っているための行動です。

しかし、このような事態を目の辺りにしたら家族は驚きますよね。

そして、1度おこったことは2度、3度とおこる可能性があります。

ということは、良い方に考えれば、「2度目からは対策が立てられる」ということです。

1度目は仕方ないにしても、2度目からは先手を打って何とか防ぐ方法を考えてみましょう。

排便記録をとる

人はだいたい排便を1日に1回~2回ほどしかしません。

ですから、便もれの対応策としては、必ず食事の後は便座に座ってもらうようにしましょう。

そして、さらに日々の排便記録をとるようにします。

■どの時間帯に排便があるのか?

■食事、おやつの後などにあるのか?

このように、本人が排便をしたくなる時間と、きっかけを記録しておきましょう。

この排便記録が、便もれを防ぐ先手を打つのに役立ちます。

記録した排便時間が近づいたら、声をかけてトイレに行くようにうながしましょう。

排便前のクセやしぐさをキャッチする

本人をよく観察していると便意をもよおしたときは、さまざまなサインを出しているものです。

それをキャッチして、トイレにうながすことで先手を打ちましょう。

母(困った)

(お尻がまたモゾモゾするわ・・・)


介護者(え)

(あ、お尻を振っている・・そろそろみたいね)

このように、便意をもよおした時のクセやしぐさは人それぞれ独自の動きがあります。

それを日々しっかりと観察することで、本人の排便時のクセに気づくようにしてあげてください。

羞恥心を察してあげる

排せつの失敗は人として非常にプライドが傷つくものです。

それは認知症の症状が進んだ人にとっても同じこと。

だからこそ、失敗したことを「隠したい」と恥じる思いが、汚れた下着を押入れに隠す行動をおこすのです。

そのような本人の気持ちになって察してあげましょう。

母(泣く)

また、ぬれちゃっている・・どうしよう

※本人が羞恥心を感じないように配慮する

介護者(笑顔)

ああ!お母さん、そこね!さっき私がお茶をこぼしちゃったの。ごめんね

このように、少しの気づかいで不安な本人の気持ちをグッと楽にさせてあげることができます。

「してあげている」を強くもたない

介護はどうしても、

「してあげている」

ということを軸にしてしまいがちです。

しかし、認知症の人にとっては感謝しようにも、なかなか理解の継続ができません。

理解の継続とは、その時に理解ができても、数分後にはスッポリと忘れてしまうことです。

たとえば、おしめを替えてあげようとして・・

「おしめを替えさせてくださいね」

「はい。お願いします」

と、承諾をもらっても、数分後にはその承諾した記憶が抜け落ちてしまい・・

「なにをするの!」

と、おしめを替えようとした手を叩かれることもあります。

しかし、これも本人にとっては当然のこと。

私たちも、もし承諾を得られないまま、自分の下着に手をかけられたら怒るのではないでしょうか?

これが認知症の介護の難しさだといえるでしょう。

しかし、介護する側も、おしめなどを替えるときに心のどこかで・・

「あなたのためにイヤだけどおしめを替えてあげている」

と、思っていないでしょうか?

つまり・・

介護側が「してあげている」という土台でいると、それに逆らう認知症の人は「その思いに抵抗して問題を起こす人」という位置関係になってしまいます。

もちろん、他人のおしめを替えることは誰でもイヤですよね。

しかし、あまりにも介護側が「してあげている」という気持ちが強すぎると、拒否された時に大きなストレスがたまってしまうのです。

そんなストレスを少しでもなくすためにも・・

「してあげている」という思いは強くもちすぎない。

このことを、本人、そして何よりも介護をする自分のために頭に入れておきましょう。