(症状1) 記憶障害が原因の物忘れ

認知症の中核症状として誰にでもみられるのが記憶障害です。

その記憶障害にうまく対応するためにも、まず「記憶のメカニズム」をしっかり理解しておきましょう。

その記憶障害にうまく対応するためにも、まず「記憶のメカニズム」をしっかり理解しておきましょう。

脳のファイルに書き込む

私たちが何年か前に経験したことを思い出すことができるのはなぜでしょうか?

たとえば、私は2015年の秋に紅葉を楽しもうと京都に旅行しました。

二泊三日の旅行中は、残念ながら雨模様の天気でした。

しかし、雨粒に紅葉の色が映え、京都の街並みと共にその美しさに心を奪われました。

このときの経験は「大きな概要、そして印象の強かった事柄」を軸にして脳へと保存されます。

介護者(ほ)

「2015年の秋」
「雨の中の紅葉」
「京都の街並み」

これらの軸となるキーワードに加えて、「心を奪われた!」という感動も加わることでより記憶が鮮明となります。

これらのことをもとに「記憶」と「引き出す」というプロセスをまとめると以下のようになります。

■経験した事柄をファイルに書き込む

■そのファイルを脳内にフォルダを作って保存

■思い出す時はキーワードを使ってフォルダを開ける

このような一連のプロセスが行われて、記憶の保存と引き出しを行うことができます。

記憶障害とは

では、認知症の記憶障害はなぜ起こるのでしょうか?

まず、その前に夢の中の記憶を例して考えてみましょう。

私たちは夢を見ても目が覚めて数時間後には忘れてしまいますよね?

なぜかというと、「記憶のファイルを作り、フォルダの中に保存する」という操作ができていないからです。

たとえば、側で誰かに口頭で電話番号を教えてもらいながらかけたとき、通話が終わったあともその番号を覚えているでしょうか?

いいえ、覚えていませんよね。

それは夢と同じように「記憶のファイルを作り、フォルダに保存する」というプロセスが行われていないからです。

認知症で記憶障害になった人もある意味これと同じです。

つまり、脳内の記憶システムをおこなう部分が壊れているために、一連の操作をすることができないのです。

そのため、聞いたこと、経験したことが、まるごとスッポリと抜け落ちてしまいます。

ではこのような認知症による記憶障害の対応法はどうすればよいのでしょうか?

本人の世界に入る

本人には経験したことがスッポリと抜け落ちている状態ですから、その状況にあった対応をしてあげましょう。

しかし、何度も同じことを言われたり、聞かれたりするとイライラしますよね。

ついつい

「だから!」

「もう!」

などという言葉を使ってしまいがちに。

しかし、本人にとっては記憶自体が抜け落ちているのですから、なぜそのような言われ方をされるのかわかりません。

ですから本人の気持ちになって答えてあげるようにしましょう。

父(笑顔)

今朝、テレビで面白い番組やってたんだよ


兄(笑顔)

へえ!どんな番組やってたんですか?

このように相手の世界に入り、合わせてあげることが大切です。

(参考記事)

メモをとることをすすめる

認知症が軽い状態でしたら、本人にメモや日記をつけるようにすすめてみましょう。

そして、できればそのメモを家族で確認しあうようにします。

たとえば、電話の横など、目につく場所にカレンダーを掛けておき、些細なことでも記入してもらうようにしましょう。

そのメモ内容を本人と一緒に家族も共有することで、記憶障害によるトラブルを防ぐことができます。

電話の対応策

電話は外部との連絡ですから、本人が受け取った場合、なにかと問題が発生することがあります。

なぜなら、認知症の人であっても、聞いている瞬間から忘れてしまうわけではありません。

そのため、電話中の会話は普通です。

このことが、あとで色々なトラブルをおこしかねません。

それを防ぐ対応策としては、メモを習慣化することに加え、録音できる電話機が便利です。

わざわざ、録音できるものを買い換えなくても、今の電話に取り付ける「通話録音再生機」が市販されているので購入を検討してみるのも良いでしょう。

家族が認知症モードになる

これは記憶障害だけの対応だけでなく症状全般にいえることですが、認知症の各症状にうまく対応するためには、

本人に合わせて「認知症モードの対応」に切り替えることです。

それには認知症と本人を切り離して考えること大切。

決して、

「なんで同じことを何度も聞くの?お父さんもいよいよボケが進んできたのね」

このような、本人の自尊心を激しく傷つける対応をしてはいけません。

何度も同じことを言ったり、聞いてきたりするのは「認知症がさせていること」です。

そのことを忘れずに・・

認知症の影に隠れてしまっている、変わらない本人を見つめてあげてください。

このようにして・・

家族や周りが、優しい認知症モードに切り替えて対応してあげましょう。