認知症でもあなたの大切な人は変わらない

認知症とはなんでしょうか?

症状が進行していくと、まるで本人そのものがどこかに行ってしまったように感じがします。

しかし、あなたの大切な人はどこにも行っていません。

たとえ、あなたの顔がわからなくなったとしてもです。

認知症を深く知れば、本人は変わらずそのままでいることがわかってくるのです。

本人と認知症は別

親が認知症と診断されたとき、「ああ、認知症のお母さんになってしまった」と思いませんでしたか?

それはちがいます。

正確に言えば、「お母さんが認知症になった」となるでしょう。

たとえ認知症になったことで意味不明な行動や言動が出てくるようになっても、

「意味不明なことをする親ではなく、意味不明なことをさせているのは認知症」

このような捉え方が大切なのです。

いま、あなたが大切な人の認知症介護に苦しんでいるとしたら、それは大切な人に苦しめられているのではなく・・

認知症に苦しめられている

ということになります。

本人と認知症は別であり、あなたが嫌悪感を抱いているのは親ではなく、認知症そのもの。

ですから、「大切な親を失ったむなしさ」「大好きな親を嫌がる罪悪感」を持つ必要はありません。

なぜ、さまざまな周辺症状が出るのか

認知症になると、中核症状にはじまり、そして周辺症状へと広がっていきます。

(参考記事)


周辺症状とは、徘徊、トイレ以外での排泄、嫉妬、被害妄想、盗み・・などがあります。

ところで、これらはなぜあらわれてくるのでしょうか?

認知症になった経験のない私たちには風邪やケガのようにシミュレーションしてあげることができません。

しかし、脳が壊れたらどうなるのか?

その視点からイメージしていくと、おのずとシミュレーションしやすくなります。

私たちの行動は脳が支配している

私たちは無意識ですが、行動を移す前には必ず脳が身体に命令をしています。

たとえば、私たちがスーパーに並んでいる食べ物をレジを通す前に口にしないのはなぜでしょうか?


妹(あせる)

お金払ってないからまだ自分の物じゃないよ!

ですよね。

当然のことでしょう。

私たちはこのようにどんなにお腹が空いていようが、支払いを済ますまでは自分の物ではないと認識しています。

そして・・

そのことを認識し、制御しているのが脳です。

しかし、認知症は脳が壊れてしまう病気・・

いつも無意識におこなっていた脳の制御が外れてしまえばどうなるでしょうか?


母(笑顔)

お腹が空いたわ。あら美味しそうなお寿司!

脳に制御されないので、目的そのものである「お腹が空いた」という気持ちが表に出てくるのです。


では、徘徊はどうでしょうか?

脳が正常な状態ならば、もう退職したので仕事に行かなくてもよいことを認識しています。

しかし、このことを認識していた脳が壊れてしまうとどうなるでしょうか?

父(笑顔)

さて!今日もそろそろ会社に行くか!

このように、脳に制御されないので、目的そのものである「仕事に行かねば」という気持ちが表に出てきます。

ですから、私たちが意味不明な行動や言動だと思っても、本人にとっては何も不思議なことではありません。

それらは当たり前のことであり、「なぜ怒られるのか?なぜ止めるのか?」

認識することができないのです。

脳は壊れた場所によって失うものが異なる

脳はそれぞれ部位によって異なる働きを担っています。

認知症の周辺症状は脳のどこの部分が壊れるかで失ってしまう機能がちがってきます。

そのため、人それぞれであらわれる症状に対して他の人と同じように対処することができません。

性格を大きく左右する

認知症の周辺症状の対応をさらに難しくしているのが個々の性格、嗜好、経験のちがいです。

たとえば、わかりやすくこのようなシミュレーションをしてみましょう。

ケーキが大好きなあなた。3時の休憩に食べようと楽しみにしていたケーキを誰かが食べてしまいました・・

介護者(困った)

ひどい!楽しみにしてたのに~!

このように悔しさがこみあげてくるでしょう。


しかし、甘い物がそれほど好きではなく、性格も他人に遠慮がちな人はどうでしょうか?

兄(笑顔)

いいよ!別にかまわないよ

このように受け取り方が変わります。


しかし、ケーキではなく、大好きなビールだとどうでしょうか?

兄(怒る)

うそだろ~!オレのビールだったのに!

このようにたとえ遠慮がちな性格でも、品物によっては態度が180度かわることがあるでしょう。

人は同じことが起こっても受け止め方はそれぞれ異なるということ。

つまり、性格や嗜好が大きく左右するのです。

このように考えると、認知症で同じ部分の脳が壊れても人によって症状が異なるのは当然といえるでしょう。

感情は残りやすい

脳のどの部分が壊れていくかはそれぞれですが、残りやすい部分の共通点があります。

それは、感情です。

そのため、周辺症状があらわれ、周りから止められたりすると、

なぜ、止められたのか?

それは理解できないのですが、

不快だという感情だけは深く感じてしまうわけです。

ところで、なぜ、他の認識を失っても、感情だけは残るのでしょうか?

それは、感情とは人間が生きていく上で欠かすことができない原始的なことだからです。

不快、恐怖、などの感情をなくすことは、すなわち身の危険がわからなくなることです。

そのため、危機管理を失くさないためにも感情は最後まで残るといわれています。

認知症の周辺症状と向き合っていくために

このように私たちが理解できないような周辺症状も脳が壊れたためにおこると考えれば納得することができるでしょう。

「本人はなにも変わったわけではなく、認知症という病気がそうさせているだけなのだ」

この捉え方ができたとき、はじめて・・

大切な人と認知症を切り離して考えることができます。

認知症の周辺症状と向き合う前に、このような捉え方をして折り合いをつけてみましょう。


介護者(ほ)

お母さんは何も変わっていない

本人と認知症は別。

そう思えることができれば大丈夫。

困った周辺症状にも臆することなくしっかりと向き合うことができます。