(症状13) 失行(服が着れない、食べ物で遊ぶ)

失行(しっこう)とは、運動機能はあるのに、今まで出来ていた行動ができなくなってしまうことです。

文字通り、行動を失うということです。

シャツをズボンのようにはいてしまったり、食事中に食べ物を箸でかき回したり・・

このような行動は認知症という病気が、今まで経験してきた記憶を奪うためにおこる周辺症状のひとつです。

では、このような失行にどのように対応すれば良いのでしょうか?

失行がさまざまな症状を引き寄せる

失行とは認知症によって、私たちが生まれてきてからひとつひとつ経験し習得してきたことができなくなってしまうことです。

私たちは排せつの仕方、食べ物の食べ方、服の着方、字の書き方・・などなど幼い頃から必死に頑張って習得してきました。

しかし、認知症になるとこれらのことができなくなる失行という周辺症状が出てくることがあります。

行動がうまくできない

このことがきっかけとなり、

失敗して、隠そうとし、見つかって叱られて・・

このように失行はとても不安定な心理状態をおこします。

たとえば、排せつの仕方がわからず失禁してしまうと、訳がわからず隠そうとしてセーターを代わりに履いてしまう。そして、家族に叱られますが、出来事を忘れているため逆に怒り出す、というようなことがおこります。

このような場合は、最初の失行がきっかけとなり問題が膨らんでいきます。

排せつの仕方がわからず失禁(失行)

訳がわからない(判断力低下)

着替えの仕方がわからない(失行)

隠す

叱られても覚えてない(記憶障害)

怒る

このように、失禁というひとつの失行が、他の症状を引き寄せることで、もっと大きな問題に発展することに。

このような時の対応として、「叱る」という方法をとってしまうと本人を逆に追い詰めることになります。

※叱れば叱るほど・・

父(泣く)

なぜだろう、なんとかしなければ・・

このように、本人はますます混乱してしまいます。

「叱る」ことよりも、まずは失行という症状を知り、認めてあげて、それから対応しなければいけません。

服の着方がわからない場合

「靴下を手袋のように手にはめる」

「ズボンの上から下着をはいたりする」

これを更衣失行といいます。

このようなときに、「なぜ、そんなこともできないの?!」

などと叱ってはいけません。

着方がわからない

という本人の戸惑いを察してあげるようにしましょう。

一番良い対応は、モデルとなって着方を示してあげることです。

兄(笑顔)

一緒に靴下をはきましょう!ボクのマネをしてくださいね!


※目の前でゆっくりとした動作で靴下をはいて見せてあげる


父(え)

ふむふむ、なるほど!そうやるのか!

このように、たとえ認知症の人でも目の前で見本をみせることで、できないと思っていたことができる場合がたくさんあります。

また、本人の自立心を維持するためにも、できるだけ手を貸さないようにし、自力で着れるように見守ってあげてください。

忙しくて、着替えの時間に付き添ってあげれない時は、着替えをあらかじめ順番に並べておいてあげるのも良いでしょう。

食べ方がわからない場合

「箸を一本だけ持って、ご飯を食べる」

「おかずをぐちゃぐちゃにしてしまう」

これらは遊んでいるわけではなく、食べ方がわからない食の失行です。

このような場合も叱ったりせず、目の前で、見本をみせてあげるようにしましょう。

また、食べ物をきちんと認識できていないこともあるので、食べ物の名前や、どんな味がするのかを教えてあげることも大切です。

(参考記事)


さらに大切なのはおかずの出し方です。

認知症になると同時に複数のことをするのは苦手になるため、おかずは一皿つづ出してあげるようにしましょう。

本人ができるだけ混乱しないよう食べ物に集中できるように配慮してあげます。

気持ちを刺激して関心をもたせる

女性であれば何歳になってもオシャレをする気持ちは残っているもの。

1日の始まりに一緒に鏡の前に立って服装をチェックしてあげるのも良いでしょう。

介護者(笑顔)

花柄のブラウスが素敵!明るい雰囲気で良い感じだよ


母(笑顔)

そうかい!ちょっと派手かと思ったんだけどね!

このように、ひとつでもなにか探して褒めてあげるようにすると良いでしょう。

また、口紅やマニキュアを塗るだけでも女性の場合は気持ちがパッと明るくなるものです。

男性の場合もネクタイや帽子を日によって変えてみることをすすめてみると良いでしょう。

普段から、身だしなみに関心がもてるようにしてあげることが大切です。

失行には笑顔で

家族としては、本人が今までできていたことができなくなっていく姿を見るのは辛いものです。

「どうしてできないの?」

と、嘆きたくなっても、認知症という病気が「わからない」、「できない」といった失行という症状をおこさせるのです。

決して本人が変わったわけではなく、ただ単に病気によってそうなってしまっただけと受け止めるしかありません。

ですが、たとえ認知症になっても長年、身体を使って覚えてことは、見本をみせてあげればできることもたくさんあります。

上手にできたときはきちんと認めて笑顔で受け止めてあげましょう。

笑顔は笑顔を呼びます。

失行がさまざまな他の症状を引き寄せる前に、ぜひ笑顔で対応してみてください。