(症状14) 真夏に冬用コートを着る

認知症が進行すると見当識障害により、季節や時間の感覚がわからなくなることがあります。

「真夏に冬のコートを着て外出しようとする」

「真冬にシャツ一枚だけでいる」

このような状態を目にすると一般の人は「どこか変な人」という目で見てくるかもしれません。

しかし、家族は見方を変えてあげる必要があります。

なぜなら、認知症の見当識障害によってこのようなことがおこるのは、ある意味とても自然なことだからです。

では、くわしくみていきましょう。

私たちは根強い固定観念をもっている

私たちは日々、生活していく中で無意識に・・

「こうなれば、こうすべき」

という、ありとあらゆることに、固定観念をもって生きています。

その固定観念のひとつとして、季節による服装の変化もそうでしょう。

日本には「衣替え」という習慣がありますよね。

一般的にその時期は、6月1日と10月1日とされています。

しかし、このような時期による衣替えの習慣があるのは日本特有であることをご存知でしょうか?

そもそも、ある一定の時期によって薄着にしたり、厚着にすることを決めてしまうことは無理があります。

なぜなら、例年よりも早く暑くなったり、逆に寒くなったりと、毎年毎年、気温の変化は定まっていないのですから。

実際、外国では、夏だろうが寒いと思えば厚着をし、冬であろうが暑ければ薄着になります。

日本には四季があるというのも衣替えがある理由ですが、そもそも日本人が皆そろって足並みを揃えることを大切にしている民族であることも大きいでしょう。

認知症の人たちの季節外れの服装について判断する前に、まずは私たちのこの根強い「こうなれば、こうすべき」という先入観を見直す必要があります。

固定観念に従うと無理がおこる

「夏だから、コートを着るのはおかしい」

このような先入観をもっていると、真夏でもクーラーがガンガン効いたオフィスで薄着のまま我慢をして風邪をひいてしまうことになります。

では、認知症の人が、真夏にコートを着ることはどうでしょうか?

見当識障害は季節、時間の感覚を鈍らせます。

つまり、長年の「この時期になれば衣替えをしなければ」という固定観念から解放された状態になります。

そのため・・

※真夏でも寒いと感じれば・・

母(普通)

今日は寒いわ、コートを着ましょう


※真冬でも暑いと感じれば・・

父(困った)

今日は暑いなぁ、シャツだけでいいな

このように、その日その日によって自分が感じた温度で服装を決めようとします。

しかし、これは自然なことではないでしょうか?

むしろ、真夏でも寒いクーラーの中で薄着で我慢していたり、真冬でも暖房の効きすぎた中で厚着で我慢している方が変だと思いませんか?

認知症の人の「季節外れの服装」の対応をする前に、このことをまず私たちがしっかりと認識しておきましょう。

温度センサーが鈍くなる

認知症の見当識障害による季節、時間の感覚がなくなることに加えて、身体が周りの気温を感知する温度センサーが鈍ります。

真夏のコートや、真冬のシャツ一枚には、この温度センサーの衰えも原因のひとつであることを知っておきましょう。

また、喉の渇きを知らせるセンサーも鈍るため、高齢になると身体が脱水状態をおこしやすくなります。

さらに、熱を作り出す筋肉量が落ちるため、必要以上に寒がりになってしまうことも。

このように、認知症の見当識障害に加えて、体温や喉の渇きを感じるセンサーやそれらの調節機能が衰えていることを忘れてはいけません。

暑いと感じれば、真冬でもシャツ一枚で外出することもあるでしょう。

ですが、外出した時はそれでよくても長時間そのまま真冬の外を徘徊してしまうと、気温の低下から命の危険性がでてきます。

確かに、自分が感じた温度によって服装を決めることは自然なことですが、認知症という病気と身体的な衰えは周りがきちんと管理してあげる必要があります。

服装の変化で早期発見

このように、認知症の見当識障害は「季節外れの服装をする」といった周辺症状をおこすことがあります。

しかし、これは認知症を早期発見しやすいという利点もあります。

なぜなら、私たちが長年つちかってきた先入観というものは、簡単になくなるものではないからです。

それは季節による衣替えも同じこと。

ですから、もしも、「真夏なのに冬用コートを着る」などの季節に関係のない服装の変化が見られた場合は見逃さず認知症の早期発見につなげてください。